岡山大学大学院 環境生命科学研究科

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世界初! 天敵から逃れる戦略を制御するゲノムの特徴を解明~死んだふりを操る遺伝子の全貌を突き止めた~

2021年11月08日

2021年11月08日


◆発表のポイント

  • 敵から逃げるため「動く」「動かない」という二者択一的な捕食回避術を進化させた動物は多くいます。前者は敵前逃走や闘争、後者は死んだふりという形で敵に対峙します。
  • 私たちは「動く」と「動かない」戦略に特化した甲虫の集団を10年以上も育種によって分け、DNAリシークエンス法で集団間のDNA変異を比べました。
  • 「動く」戦略では844個、「動かない」戦略では3243個のアミノ酸が異なる変異遺伝子が見つかり、両者で生存に重要なゲノムネットワークの変化が世界で初めて明らかになりました。

 岡山大学学術研究院環境生命科学学域(農)の宮竹貴久教授、東京農業大学生物資源ゲノム解析センターの田中啓介助教、玉川大学農学部の佐々木謙教授らの共同研究グループは、米・小麦類の世界的重要害虫であるコクヌストモドキにおいて、死んだふり時間の異なる育種系統間でゲノム全体のDNAリシークエンス解析によってゲノム特徴を比較しました。DNA変異は動く(死んだふりしない)系統より動かない(死んだふりする)系統で多くみられました。その中でドーパミン代謝系関連遺伝子群では複数の変異が見られ、対捕食者回避にドーパミン関連遺伝子が重要なことが分かりました。ほかにもカフェイン代謝系、シトクローム(酸化還元酵素)代謝系、寿命制御系、概日リズム制御系にも変異が見られ、死んだふりという戦略にも複雑な分子基盤が関与することが明らかとなりました。生物が生き延びるために選択する動きを支配する主要な遺伝子はドーパミンと、生活史を制御する複数のタイミングに関連する遺伝子が関与していることを、今回、世界に先駆けて明らかにしました。本研究成果は、11月8日英国時間午前10時(日本時間8日午後7時)に英国のオンライン科学雑誌「Scientific Reports」(Nature Publishing Group)に掲載されます。今後、人間を含めた動物の動きを制御する仕組みの解明に繋がると期待されます。

◆研究者からのひとこと

自然のなかで昆虫の行動を観察していると世界の誰も明らかにしていない現象がたくさん埋もれています。それを突き詰めて解明すると人類にとって新しい知識が一つ増えます。それがいつかは人の暮らしの役に立つこともあるのです。大切なのは面白がって調べること。それは人生を豊かにしてくれる秘訣でもあると僕は思います。
宮竹教授

■論文情報
論 文 名:Genomic characterization between strains selected for death-feigning duration for avoiding attack of a beetle
邦題名「天敵から逃げるために昆虫の死んだふりの持続時間を育種した系統間のゲノム特性」
掲載紙:Scientific Reports
著 者:Keisuke Tanaka, Ken Sasaki, Kentatou Matsumura, Shunsuke Yajima, Takahisa Miyatake
D O I:DOI: 10.1038/s41598-021-00987-z

<詳しい研究内容について>
世界初! 天敵から逃れる戦略を制御するゲノムの特徴を解明~死んだふりを操る遺伝子の全貌を突き止めた~

<お問い合わせ>
岡山大学 学術研究院環境生命科学学域(農)
教授 宮竹 貴久
(電話番号)086-251-8339












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