岡山大学大学院 環境生命科学研究科

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体内時計のリズムの振幅は北に行くほど小さくなる!昆虫を使った実証で発見

2021年02月02日

2021年02月02日



◆発表のポイント

  • 人の睡眠、花の開花、昆虫の繁殖など、ほぼすべての生物は体内時計によるリズムに支配されて日々の営みを続けていますが、体内時計と野外で暮らす生物の生態を結びつけた研究は多くありません。
  • 日本全国から甲虫の一種・コクヌストモドキを採集して体内時計のリズム関連形質を調べたところ、時計の長さは緯度によって変わりませんでしたが、リズムの振幅の強弱には緯度による違い(クライン)が見られ、北に生息する虫ほど弱いリズム振幅を持つ(同じ個体における、1日の中での活動レベルの高低の振れ幅が小さい)個体の頻度が多いことがわかりました。
  • 寒暖の差の激しい厳しい環境で育った北国の昆虫では、行動が厳格に制御される体内時計の支配を強く受けない個体のほうが生き延びやすい可能性が考えられます。

 人の睡眠、花の開花、昆虫の繁殖など、ほぼすべての生物は体内時計によるリズムに支配されて日々の営みを続けています。南北に広く生息する生物では、緯度によって性質が変わる特性(クライン)を持つものが多く、体内時計の長さは高緯度ほど長くなる生物がいますが、その逆も報告されており、体内時計と野外で暮らす生物の生態を結びつけた研究は多くありません。
 岡山大学大学院環境生命科学研究科(農)の宮竹貴久教授、同大学大学院自然科学研究科(理)の吉井大志准教授、香川大学農学部の松村健一郎研究員、理化学研究所革新知能統合研究センターの阿部真人特別研究員は、貯穀害虫でもあるコクヌストモドキという甲虫を青森県から熊本県の37か所より計1585匹採集し、体内時計のリズムを測定しました。結果、体内時計の周期の長さは緯度や経度によって変わりませんでしたが、体内リズムの振幅(活動量の振幅)の強弱にはクラインが見られ、北で採集した個体ほど多くの割合で弱いリズム振幅を持っていることが明らかになりました。この研究成果は1月14日、オンライン国際学術雑誌の国際雑誌「PLOS ONE」のResearch Articleとして掲載されました。
 同様の傾向は他の昆虫でも過去に報告された事例があります。仮説の段階ですが、寒暖の差の激しい厳しい環境で育った北国の昆虫では、行動が厳格に制御される体内時計の支配を強く受けない個体のほうが生き延びやすいのかも知れません。今回の研究は、生物学に大きな謎を投げかけた研究事例として注目されます。

◆研究者からのひとこと

 日本列島は、亜寒帯地域から亜熱帯地域まで南北に長く延びていますので、北国と南国に暮らす生物の性質の違いを研究するには適したお国柄と言えます。生物が示すさまざまな行動や形態が地域によってどのように異なるのか? まったく興味深い研究テーマです。
宮竹教授

■論文情報
論 文 名:Amplitude of circadian rhythms becomes weaken in the north, but there is no cline in the period of rhythm in a beetle
  邦題名「甲虫の概日リズムの振幅は北に行くほど弱くなるが、リズムの周期にクラインはない」

掲 載 紙:PLOS ONE
著  者:Masato S. Abe, Kentarou Matsumura, Taishi Yoshii, Takahisa Miyatake
D O I:https://doi.org/10.1371/journal.pone.0245115

<詳しい研究内容について>
体内時計のリズムの振幅は北に行くほど小さくなる!昆虫を使った実証で発見

<お問い合わせ>
岡山大学大学院環境生命科学研究科(農)
教授 宮竹 貴久
(電話番号)086-251-8339
(FAX番号)086-251-8388



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