岡山大学大学院 環境生命科学研究科

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水系保全学分野

水系保全学分野 (Conservation of Aquatic Biodiversity)

教員

Hiroshi_FUKUDA 准教授: 福田 宏 Assoc. Prof. Dr. FUKUDA Hiroshi
E-mail:suikei1@(@以下はcc.okayama-u.ac.jp を付けてください。)
専門分野: 分類学,軟体動物学,生物多様性保全学

主な研究テーマ

 日本の陸地・淡水・浅海等の環境においては,さまざまな人工改変や攪乱によって現時点で1000種以上の貝類が絶滅の危機に瀕しています。しかも,それらの多くは大きさがわずか数mmと微小なため,研究は著しく遅れており,人類によって認識すらされないまま滅びつつある種が多数あります。彼らを救うには何をすべきでしょうか? いつ,どこで,どんな種が,いかに棲息しているかが判らなければ救けようもありません。水系保全学研究室では貝類の分類・棲息状況等の基礎的な検討を行い,保全対策に直接活かしています。

貝類の分類と記載

 日本でも,いまだ多数の貝類の新種が現れます。それらの種は正式に学名を命名し,どのような形態を持っているか明確化されねばなりません。また,すでに知られている種でも,詳細に検討してみると,複数の種を同一種と見なしていたり,誤った属や科に含められているなど分類の混乱がしばしば見られます。このような混乱を解決するためには,DNAの検討もさることながら,生殖器・消化器・泌尿器・神経系などの比較解剖が有効です。それら解剖学的情報に基づき,それぞれの種がどの種と近縁で,どのグループから派生して生じたかなど,種のアイデンティティを明らかにします。

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Turbo sazae Fukuda, 2017 サザエ

貝類の分布調査と標本に基づくデータベース化

 貝類は陸上および水域のほとんどの環境に棲息する上,移動能力に乏しいため他のどの生物と比べてもその場の環境条件との結びつきが強く,環境状態の歴史的変遷や現状を知るための指標生物として最適な存在です。しかしその分布や棲息状況の調査は進んでおらず, 普通種ですらどのように産出するのか明らかでない場合が少なくありません。そこで,日本全土で精力的に貝類の採集を進めて産出状況を記録するとともに,得られた種の標本を作製し,データベース化しています。2021年5月の時点で約30,000点の標本を検索可能としています。

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Satsuma akiratadai Kameda & Fukuda, 2015 アキラマイマイ

貝類の多様性の保全

 昨今は,開発などで自然環境が損なわれる場合,生物多様性も含めた保全対策が実施されるようになってきました。しかし依然として,上記のような分類の不備や混乱が存在するため,保全すべき希少種を見落としたり,誤って普通種であると過小評価してしまうなどの問題が頻繁に生じています。この結果,「保全対策」を行ったにもかかわらず稀少種をみすみす絶滅させてしまった例もあります。このため生物多様性保全の現場においては何よりもまず,それぞれの種とその棲息状況を正しく認識・把握する必要があり,その上で初めて実効性のある対策が成しうることを訴えています。

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Sunetta beni Fukuda, Ishida, Watanabe, Yoshimatsu & Haga, 2021 ベニワスレ

最近の主な業績

  • Fukuda, H., Ishikawa, H., Ito, S. & Haga, T., 2022. Nitidotellina hachiensis n.sp. (Bivalvia: Tellinidae) from the Seto Inland Sea, between Honshū and Shikoku, western Japan. Molluscan Research, 42: in press.
  • Fukuda, H., Ishida, S., Watanabe, T., Yoshimatsu, S. & Haga, T., 2021. The bivalve genus Sunetta (Heterodonta: Veneridae) of Japan and the neighboring waters – a taxonomic revision with the descriptions of three new species. Molluscan Research, 41: 107–171.
  • Yamazaki, D., Hirano, T., Chiba, S. & Fukuda, H., 2020. A new replacement name for Chlorostoma lischkei Pilsbry, 1889 (not of Tapparone-Canefri, 1874) (Vetigastropoda: Trochida: Tegulidae). Molluscan Research, 40: 327–344. https://doi.org/10.1080/13235818.2020.1831716
  • 福田 宏ほか, 2020. 軟体動物. In: 岡山県野生動植物調査検討会 (編), 岡山県版レッドデータブック2020 動物編, pp. 307–707. 岡山県環境文化部自然環境課, 岡山. https://www.pref.okayama.jp/page/656841.html
  • 福田 宏, 2020. マメタニシ, タクミニナ. In: 環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室 (編), 環境省レッドリスト2020補遺資料, pp. 38, 38–39. 環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室, 東京. https://www.env.go.jp/press/files/jp/113629.pdf
  • Saito, T., Chiba, S. & Fukuda, H. 2020. Type materials of the species of the Planorbidae (Mollusca, Gastropoda, Hygrophila) described by Shuichi Mori. Molluscan Research, 40: 169–182. https://doi.org/10.1080/13235818.2020.1724604
  • Fukuda, H., 2019. Assimineidae H. & A. Adams, 1856. In: Lydeard, C. & Cummings, K.S. (eds), Freshwater Mollusks of the World. A Distribution Atlas, pp. 94–100. Johns Hopkins University Press, Baltimore.
  • Saito, T., Do, V.T., Prozorova, L., Hirano, T., Fukuda, H. & Chiba, S. 2018. Endangered freshwater limpets in Japan are actually alien invasive species. Conservation Genetics, 19: 947–958. https://doi.org/10.1007/s10592-018-1068-5
  • Fukuda, H., 2017. Nomenclature of the horned turbans previously known as Turbo cornutus [Lightfoot], 1786 and Turbo chinensis Ozawa and Tomida, 1995 (Vetigastropoda: Trochoidea: Turbinidae) from China, Japan and Korea. Molluscan Research, 37: 268–281. https://doi.org/10.1080/13235818.2017.1314741
  • 久保弘文・福田 宏ほか, 2017. 貝類. In: 沖縄県環境部自然保護課 (編), 改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物 第3版 (動物編) -レッドデータおきなわ-, pp. 423–673. 沖縄県環境部自然保護課, 那覇. https://www.okinawa-ikimono.com/reddata/download/index.html

卒業生・修了生進路

  • 大学院進学,研究・環境調査機関,博物館学芸員,一般企業,公務員等